ウインドキャラバン三田を終って

真夏の太陽の下、生き生きとした緑に覆われた田んぼを眺めていると、これがほんの2ヵ月前、水が引かれ、山や空を写し出した、あの同じ田んぼとはとても信じられない。田植えと平行して、21点の風をはらむ白い帆のような彫刻が田んぼに植えられ、農道に風車小屋が設置された。6月11日の、招待者によるオープニング・セレモニーには、海外や遠方のゲストを含む800人近い人々が、交通も不便な私のアトリエ前に広がる田んぼに集まって下さった。梅雨の最中でもあり、全ての行事を野外で行うこと自体大冒険だったが、ぎりぎりまで心配した天候も奇蹟的に持ちこたえて、予想以上の素晴しいオープニングとなった。地元の子供たちによる田植え、休耕田を利用した会場でのシンポジウム「今地球のために出来ること」(パネラー:安藤忠雄、ピエール・レスタニ、フランス・クライスバーグ、新宮晋 司会:中原佑介)、夕暮れにかけての農道での大蔵流狂言「田園三番三」(大倉源次郎、藤田六郎兵衛、茂山千三郎他)等が行われ、田園の空気と移り行く時間の経過をたっぷりと味わって頂けたと思う。蛙の大合唱の後、その夜は見事に蛍が飛び交っていた。気紛れな自然の要素の大きいこんな企画が成功するかどうか、誰に予測が出来ただろうか。ピエール・レスタニはいみじくもこう言った。「お前には、空の上の誰かがついている」
2週間の会期中、2500人以上の来場者があった。当然のことながら、この季節雨の日も多かったのに、最寄りのJR藍本駅から2キロの道のりを歩いて来て下さった方も多かった。2度3度と来て下さるリピーターも多かったが、遠路6回も見に来て下さった方がおられたのには感動した。
ウインドキャラバン三田は、地元の暖かい協力のお陰で、無事成功の内に終了した。いよいよこれから世界の5ヶ所の開催地に向けて旅立って行くことになる。次はニュージーランドのオークランド沖に浮かぶ無人島モトゥコレアで、11月4日から19日にかけて開催される。風車小屋の中に収納された21点の作品たちは、もうすぐ送り出される。
ウインドキャラバン三田にご参加下さった方々、そして世界各地でウインドキャラバンを応援して下さっている方々に、私は心から御礼を申し上げたいと思う。皆さんの暖かい心に支えられて、ウインドキャラバンは各地で素晴しいメッセージを発信していくだろう。
2000年7月25日
新宮 晋