2011年6月11日 | |
中村 桂子(生命誌研究者)、若一 光司(作家)、新宮 晋(アーティスト) | |
さてそこで話題が変わりますが、今回の東日本大震災が起こって、非常な転機を迎えているような気がしますけれども、そのことに付いて、お二方からお伺いしたいのですが。 |
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私はこれまでに二度、取材で被災地に入りました。岩手と宮城の被災現場を取材して、テレビでリポートしたり、新聞にルポを書いたりしたんですけれども。 東北の方々のそういう辛抱強さやモラルの高さは、どのようにして育まれたのかということを、岩手県の釜石市で、被災者の方々と飲みながら議論する機会がありました。そのときに何人もの方が異口同音に話してくれたのが、意外にも、稲作との関係でした。 北限での自然の移ろいを鋭敏に読み取ることのできる、その感性の豊かさで、一緒に作業している人の気持ちも読み取り、常に、自分ではなく全体の状況を優先させる。「和をもって貴しとなす」ということですね。 |
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私も、現地へは行ってないのですけれども、いろいろなメディアを通して東北の方を見ていて、本当に同じことを感じました。 政治家や官庁の方、経済界の方、評論家などがお話になっていることは、ちっとも心に響かないのですが、農業や漁業に携わってらっしゃる方たちの言葉が、本当にすごいんですね。今おっしゃった通りで。 お二人が「和」とおっしゃって、みんなでやることが大切なのですが、実は最近「和」という字に興味があるのです。 これが、日本人の「和」だと思うのです。個人が無いんじゃなくて、個人はちゃーんと持っていながら、みんなで一緒にやることで、新しい味を作るんですね。私はこの、サラダではなく胡麻和えというのが、日本の特徴じゃないかと気づきました。 |
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素晴らしいと思います。 でもそういうことを、個人で思っているだけではなく、それを発表したり、人にも同じように分かって欲しいと言い出すあたりから、アートはどんどんややこしくなるのです。 まあ実験的かも分かりませんけれども、色んな人が参加出来るように。私は、個性というか、どこから見ても岡本太郎とか、ピカソとかいう風には、分からないものを作って、「新宮って一体どれ?」っていう、「何だ、風かあ」っていうぐらいの感じでやりたかったんです。 |
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それこそ、和え物じゃないですか(笑い)。 |
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じゃあ私、これから和え物アーティストと名乗ることにします(笑い)。 |
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今回被災地で取材をする中で、またあらためて、新宮さんの仕事に思いを馳せたことがあります。 新宮さんの作品は、風力で動くということが大きな特徴になってますが、昨年発表されたその作品(風車)は、単に風で回転するだけでなく、作品それ自体が電気を起こす、つまり発電機でもある、というものでした。そういう、再生可能なエネルギーを発生させる、装置性のある作品を去年お作りになって、実際に芦屋の浜で、その発電能力のテストをされました。その作品がですね、後ろにあります。 この作品が芦屋の浜に設置されているときに、私はその現場を取材して、テレビで紹介させて頂いたんですが、私はその時に、「新宮さんがエネルギーというもの、しかも小規模エネルギーというものに関心を持たれたのは、どういうことかな? そして今後、どういう展開になるのかな?」と、非常に興味を覚えたんですが、そのしばらく後に、今回の東日本大震災があったわけです。 ……その被災地を実際に歩きながら、独占的集中がもたらす弊害の大きさを、つくづく感じました。現在は電力10社が、各々の地域で独占的に、発電や送電をやっています。集中的な大規模発電・大規模送電をしてきたわけですが、その電力会社が被災したら、今回のような、とんでもないことになるわけですね。集中的な大規模発電・送電に支障が生じたら、とたんに、ものすごく多くの人の自由と安寧が奪われてしまう。 ところが、新宮さんの風力によって発電する作品というのは、そうした大規模な集中発電の、反対側にある発想ですね。それは、マイクロ発電、小規模発電ということになりますし。 |
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絵本も描きますし、舞台もやりますし、こうして作品も作りますし、それを共通して私が表現したかったのは、この地球というのが、宇宙の中でも非常にユニークで豊かな星だということです。 それは、自然との長い付合いの中で、自然エネルギーのものすごい力を体験し、理解出来たからです。何しろ風車の専門家といわれる方でも、私みたいに50年にわたって風と付合ってきた人はいないのです。そういう意味では、胸をはって言えることが色々ありますので、今回発電風車のアイデアまで進んできたのです。 震災が起ころうが起こるまいが、私のやろうとしたことの方向は、ずれていないと思います。自然が好きで、地球が好きで、こうして生きてきました。それで皆さんと会えたことも、すごく幸せに思っています。 |